「Show must go on!!」磯部 敏弘(高34)

麻布や開成などある種の進学校の校風はとても自由だ。予備校化して大学受験を念頭とした学校とは考え方が異なる。自由は自分たちで律するものであり、長く人生を楽しむための学問を自らの手で探るのだ。当時の星陵もそういった学校のひとつだった。超進学校ではないが、そこそこ地頭のよい連中が勉強や部活、ときに無駄に時間を過ごすことにより、のんびりと個性を育てていった。ワタクシも柔道部で日夜、汗臭い道着にくるまれるかたわら、星陵祭で公開する自主映画の製作や、小豆島、四国へのサイクリング旅行など、勉強以外、やれることは色々チャレンジした(ちなみに、わが柔道部は県大会団体ベスト16。善戦したほうだろう)。おかげで、受験前、英語の模擬試験では、長文中の英単語がほとんどわからないという素晴らしい結果となった。浪人して颯爽と予備校、神戸YMCAへ…。 ところが、ここは、出席とったり生活指導に厳しく、星陵で鍛えられたワタクシには合わなかった。2ヶ月ほどで「君はもう来なくてよい」(要するにクビ)というありがたい宣告をいただいた。以来、勉強するといって出かけては、六甲山でぼんやり羊を眺めていたり、当時、三宮にあったビック映劇という名画座で毎日映画を見る生活が始まった。一浪後、なんとか早稲田に潜り込めたが、たまたま読書が好きだったので、国語と日本史は勉強しなくてもできたせいである。好きこそ物の上手なれ、だ。

大学時代は、合コンやオールラウンドスポーツクラブで楽しく学生生活をおくる連中をはた目に、自動車工場で働いてはお金をため、バックパッカーとして世界を旅して回った。子供のころから、スナフキンやドリトル先生に憧れていて、世界を放浪したかったのだ。ワーキングホリデイで豪州に1年ほど暮らしたこともある。ワイン用の葡萄を摘んだり、オパールを掘って暮らした。周囲は大学を卒業し、就職する者が多かったが、ワタクシは元祖?『フリーター』として旅暮らしを続けていた。世はバブル景気だった。

「いくら旅してもキリがない。このままだと、永遠に彷徨(さまよ)い人になってしまうかも…」さすがに26才。旅先でほんとの根無し草になってる旅人たちを眺めながら漠然とした不安がよぎっていた。こういう生活は辞めどきが意外とむずかしい。たまたま飲み会で、大学の同期が、「こんどうちで旅行雑誌が創刊される。お前は旅も好きだし、本を読んだり書いたりも好きだから行ってみたら…」。ということで、当時創刊されたリクルートの国内旅行雑誌『じゃらん』編集部で働くことになった。そしてそのまま、リクルートで5誌(旅系)ほど創刊を経験することになる。創刊に立ち会える編集者は少ない。そのなかで貴重な経験をさせていただいた。編集者が性に合ってたのかもしれない。日本中のホテルや旅館、観光地を旅して取材した。普通なら会えないような専門家たちに話を聞いて記事にした。毎日が文化祭の前日のようで、仕事をしてるというより一生懸命遊んでいるような感じだった。

じつは、バックパッカーの頃から好きで勉強と実践を続けていたことがある。それは、さまざまな代替医療系のセラピーである。カイロプラクティック、オステオパシー、各種整体、気功、ヨガ、アユルベーダ、マクロビオティック、心理療法…。はては、中国最高の中国医学の大学である北京中医薬大学(日本校)まで卒業した。漫画『鋼(はがね)の錬金術師』のなかで、「等価交換の法則」というものがでてくる。なにかを得ようとすれば、それと同価値のものを捧げなければならない、というものだ。多くの人が結婚したり、車や家を購入したり、子供の教育費にお金をかけるが、ワタクシは恐らくそういったセラピーの研究実践に同じくらいの予算と時間をつかってきたことだろう。

40歳前後になり、さすがに編集、ライティングの仕事も大方やり尽くした感がでてきた。あとは、作家になるか、編集プロダクションでも開くか、出版社をつくるか…。そこで、ワタクシは、長年、研究実践してきたセラピー系の仕事をすることにした。『私の人生』という書物があれば、「バックパッカー」編、「雑誌編集者」編に引き続き、「セラピスト」編が始まったのである。現在、東京の麻布で一人、ほそぼそやっているが、おかげさまで、国内のみならず、遠くスイスやサンフランシスコ、パリ、シチリアなど海外からもときどきクライアントさんがいらっしゃるようになった。また、女優やモデルさん、プロゴルファー、歌手、ドラクエを作ってるゲーム会社の社長から、英文学の大学教授など多彩な方々とお会いする。ありがたいことである。

昨年(2012)の『統合医療学会国際シンポジウム』には、東大、慶応、東京医科歯科大、阪大、など日本のトップ医大のなかでも世界的な活躍をされてるドクターたちの講演があいついだ。ちなみに、慶応病院では、すべての科の80%以上(産婦人科はほぼ100%)で漢方薬を使用してるという。統合医療とは、近代西洋医学と、さまざまな代替医療(漢方や中国医学、アユルヴェーダなどの伝統医学、気功、ヨガやアロマテラピー、ホメオパシーなどなど)の統合を目指そうというものだ。阪大では、すでに統合医療センターの設立を見込んでいるらしい。これからは、そういう時代ということだろう。先日も大阪の整形外科の先生から興味深いメールをいただいた。「こんにちわ。整形外科の〇〇です。先日磯さんに教えていただいた気の飛ばし方?をクリニックの患者さんにやってみました。足が重く、なかなか歩けない患者さんが気を飛ばしただけで、足が軽くなりさっさと歩けるようになりました。それも何人も何人もです。嫁の小指がずっと痛くて治療しても治せなかったのですが、4回ほど集中して気をとばして治療したところすごく良くなりました。はっきり言ってびっくりです。こんな世界があるんだなあと不思議と面白みでいっぱいです。磯さん 不思議な世界をありがとうございました。」


また、最近、寺子屋形式で、整体や気功、小顔美顔などの美容技術、その他、心理療法など、さまざまなセラピーを教え始めた。自宅で「美と健康に奉仕する仕事」をしたいという女性や脱サラで手に職をつけたい男性、もっと技術を深めたい現役の施術家などユニークな受講生たちが多い。私自身が受けたいような授業スタイルで、楽しく遊んでるように学んでいく。堅苦しいのが苦手なのは、星稜仕込みである。少人数の寺子屋形式だからできるのかもしれない。一昨年は要望にそって、フランスのパリで美容系(小顔美顔)の講座を開いた。昨年、ここの卒業生が、パリの美容界でブレーク。『VOGUE Paris(ヴォーグ パリ)』『VOTRE BEAUTE(ヴォートルボテ)』という美容分野におけるパリの2大雑誌のそれもそれぞれ編集長が直接取材にきて「こんな技術はパリにない」と大絶賛したという。どうやらパリの美容界で噂になっていたようだ。その他、『FIGARO(フィガロ)』、『GRAZIA(グラツィア)』などフランスを代表する雑誌の取材ラッシュだ。「こんど、カトリーヌ・ドヌーブとマルチェロ・マストロヤンニの娘で女優のキアラ・マストロヤンニの施術をするんです!!」彼女にはスーパーモデルの施術とかどんどん進んでいってほしい。教え子が活躍するのは嬉しいものである。ワタクシもここ3年はシチリアのジャパンイベントに参加して、東洋の怪しい技を紹介している。今年はモナコかトリノでなにかしてみようかな、とも思っている。それもその場の流れだ。どうなるかわからない。そもそもが、ゴールを定めてコツコツと向かっていく『目標達成型』ではなく、その場その場で好きなことをやってるうちに思わぬ方向へ話が進んでいく『状況展開型』である。今でも、日夜、さまざまなセラピーの研究、実践を行っているが、昨年は海外へ。韓国、ソウルでは韓国伝統医学や薬膳、そして、骨気(コルギ)を代表とする美容。ロシアでは、特殊部隊スペツナズが採用している、ロシアの合気道とも呼ばれるシステマ。システマは、古代ロシアの民族武術にロシア正教の呼吸法やさまざまな武術のエッセンスが加わった面白い格闘術だ。システママッサージというものもあり、背中にスティックを突き刺していくのだが、大変に痛いのである。世界は広い。いろいろ勉強になるものだ。


こんなデタラメなワタクシの人生の根本にあるのは間違いなく星陵だ。あの大切な宝石のような3年間…。教室の窓辺から眺めた淡路島、明石海峡を渡る小舟たち、だらだら続く商大坂、夕陽に染まる垂水の浜、友人たちと延々くだらない話をしながら過ごしたエーダヴ(A&W)、デイク(デイリークイーン)…。「なぁ、俺ら10年後、なにしてんねやろな」「さっぱり見当もつかへんわ」あれから、30余年。「なぁ、俺ら10年後、なにしてんねやろな」「やっぱり、さっぱり見当もつかへんわ」

Show must go on(まだまだ幕は降りない)!!

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