「48歳の手習い~私の今までとこれから」犬伏 光代(高34)

34回生犬伏光代(旧姓岩田)と申します。 高校を卒業してから31年、この春私の次男も星陵を卒業しました。次男が入学した頃、昔とはすっかり変わってしまった瀟洒な校舎には、「母校」の懐かしさがなく寂しかったのですが、行事や試合に何度も足を運ぶうち校内のあちらこちらに思い出のカケラを見つけ、まさに高校時代の自分と時間を超えてリンクしているような感覚になりました。友人に子供が母校に通うっていいね、羨ましいと言われた意味が後からじんわりわかってきたのです。そして、今回このコラムを書かせていただくことになり、星陵との縁の深さを感じています。

さて、高校卒業後、医療短大に進んだ私は、製薬会社の研究所に就職し、病理検査の仕事をしていました。男女雇用機会均等法が施行されて、女性も結婚、出産で退職せずに仕事を続ける施策が企業でもようやく始まった頃でした。私は結婚後も働いていましたが、子供のそばで子育てをしたいと思い、出産を機に退職し、専業主婦となりました。 それからは主人と子供二人が中心の生活。彼らをサポートするのが私の役割となり、正確に早く成果を上げる…「できる」事を求められる世界から、予定や育児書なんてなんのその、うまくいかなくて当たり前…「できない」事と向き合う世界へ大転換したのです。それでもそれは心地よく、できない事に挑戦する子供達をじっと見守り、できた時の嬉しそうな子供の姿を見る事は、こんなにも心が温かくなるものなのかとわかり、自分の事以上に感動しているこの気持ちがいわゆる「親バカ」というものかなと思ったりしました。この感動は、我が子だけでなく近所の仲の良い子供の友達にも当てはまり、ママ友と幼児教室を企画したり、PTA活動や地域のラグビースクールのお手伝いしたり、子供と一緒に楽しく、積極的に地域の活動に参加してきました。人は一生の中で約5000人の人と出会う…と何かの本で読みましたが、本当にたくさんの、いろいろなタイプの人と出会い、世界が広がったように思います。こんな女性になりたいなと思える先輩にも出会いました。振り返れば喧嘩したことも、不用意な発言で人を傷つけてしまったことも、辛いこともありましたが、勝手な事ですが不思議と良いことばかりが思い出されます。

3年前、長男が大学2回生になる時に家を出て一人暮らしを始め、同時に次男が高校に入学しました。突然今までの子供のサポートという役割がなくなり、何か体に大きな穴が空いたように感じ、どうしていいのか自分でもよくわからなくなったのです。子供の成長に合わせて10年以上パートの仕事もしていたのですが… 「さあ、どうする!」となった時、自分も何かに挑戦しようという気持ちになりました。主人は経験を積むことで、子供達は大きな壁に挑戦して成功したり失敗したりしながら成長しているのに、私は取り残されている気がしていましたし、働き続けている同級生の女性の活躍も刺激になったのかもしれません。 ○○ちゃんママ、いぬぶのおばちゃん…からの脱却です。ただでさえ生まれた時と名前も変わっていますし。 ただのパート勤めの専業主婦に何ができるのかと思った時、家事のエキスパート(笑)ではあると思ったので、少しでも経験を活かせそうで、転職も可能な公的資格…消費生活アドバイザーと消費生活専門相談員を目指す事にしました。家族にも友人にも公言して、張り切って勉強を始めたものの、あまりの脳の衰えっぷりに愕然としました。記憶力は良い方だと思っていたのに、何回読んでも“はじめまして”…記述問題以外に論文も弁護士さんとの面接もあるというのに。やっぱり世の中甘くない!壁にメモを貼りまくり、犬の散歩の時も大きいサイズの単語帳を持ち歩いて暗記しました。まさに久々の受験勉強、“48歳の手習い”です。共に講座で学ぶ友人に励まされ、先生に叱咤激励され、後はお母ちゃんの意地でなんとか合格し、運のいいことに某市役所の消費生活センターに就職することができました。

50歳を前に再就職できたことは、自分の自信になりましたし、勉強はしんどかったのですが、新しいことを知るということは本当に楽しいことだと改めて感じることができました。この年で勉強したからそう思ったのかもしれませんね。主人の扶養からは外れましたものの、とても一人で暮らしていける収入ではないので偉そうには言えませんが、将来何があってもなんとかなるかもよ!ってことは子供にも伝えられたかなと思っています。

消費生活センターは主に契約についての相談窓口で、都道府県だけでなく各市町村に設置されています。訪問販売のクーリングオフや多重債務、架空請求やネット通販等のインターネットトラブル、賃貸借トラブルなどの他にも電化製品が異常に熱くなり火傷をした、化粧品でかぶれた、新聞購読を解約したい、最近流行りの健康食品の送りつけ、等々様々な相談に対応しています。困ったときは居住地または勤務先の所在地のセンターにご相談下さいね。 センターに相談に来られる方、電話を下さる方は、とても困っているか、とても怒っている方がほとんどです。ですから、こちらも誠意をもって一生懸命聞く事を心がけています。話をうかがう時、これまで自分がたくさんの人に出会いいろいろな価値観や考え方に接してきた事、買い物で失敗した事、子育て中困った事、ご近所づきあいで悩んだ事、パート先での経験等々生活の中での経験がとても役に立っています。人生、本当に無駄な事ってないな~と感じています。

今年34回生は同窓会総会の幹事学年ということで、昨年から少人数の宴会や大規模な同期会など数々の企画が立ち上げられ、30年の時を経てたくさんの同級生と再会しました。みんなそれぞれの場所でいろいろな事を抱えながらも、しなやかに、素敵に輝いています。私もそんな一人になれたらいいなと思っています。

20代で仕事を辞めたことを後悔したこともありましたが、専業主婦なりに精一杯過ごしてきた時間は、かけがえのない大切な宝物だと今は素直にそう思います。子供はいつしか成長し、良き相談相手となっています。「母さんも頑張れよ」と声をかけられ、今日も仕事に出かけます。次の目標は輝く60歳。それまでにどんな人と出会い、どんな体験ができるか…とても楽しみです。