「五箇山合掌かくれ里物語」山本裕美(高34)

34回生、山本裕美と申します。

今年は、私たち34回生は同窓会の幹事学年でした。私自身はお手伝いできなかったのですが、そのおかげで多くの友人と旧交を温めることができ、改めて星陵高校の卒業生ということを実感した1年になりました。

私は今、時間の半分を企業で勤務する傍ら、半分は地域活性化支援のお仕事をしています。
短大卒業以来25年間勤務した会社を4年前に一旦辞め、そこから始めた地域活性化支援。
まだまだ勉強中ではあるのですが、その中で昨年から通い続けている五箇山について、ご紹介したいと思います。

五箇山(ごかやま)。この地名に馴染みのない方も多いことでしょう。
『白川郷・五箇山の合掌造り集落』と言うとおわかり頂けるでしょうか?
白川郷と共に、平成7年にユネスコの世界文化遺産に登録された地域です。

相倉(あいのくら)合掌造り集落

白川郷は岐阜、五箇山は富山と、県をまたがる世界遺産です。合掌造り集落の規模が大きい白川郷は、その後の観光客誘致にも積極的で、今や合掌造りの代名詞となりました。一方隣接する小規模な五箇山では、観光客が徐々に減っていき、その後の市町村合併、高速道路の全線開通による人口流出や少子高齢化等により、現在の人口は世界遺産登録当時の半分になるなど、地域の力が衰えるとともに、住民からも世界遺産の存続を危惧する声が上がるようになってきました。

五箇山は、深山幽谷・豪雪という厳しい自然環境にあり、深い谷を流れる庄川に遮られ“鳥も通わぬ秘境”として平野部とは長く隔絶されてきました。それ故に特異な歴史を持ち、そのなかで特有の文化や生活様式が生まれ育まれてきました。

・古くは壇ノ浦で敗れた平家の落人伝説
・江戸時代、合掌造りで行われた加賀藩の秘密の煙硝(火薬の原料)づくり
・加賀藩の罪人の流刑地

厳しい地形や気候から生まれた歴史。稲作に適さない気候の五箇山で、煙硝が年貢米の代わりになり、平野部との往来が厳しいゆえに流刑地とされました。罪人が逃げないよう、川に橋を架けることは禁じられたため、当時は川に縄を架け、籠を使って物資や人を渡しました。“籠の渡し”と呼ばれ、今は模型が架けられていますが、こんなもので川を渡るなど、本当に命懸け!
(1枚目の写真はその模型です。)

そして、
・楮(こうぞ)の木を使い、雪の中で“寒ざらし”という独特の製法による良質の和紙づくり
・合掌造り家屋での養蚕
・大豆を使い、寒冷地ならではの堅豆腐づくり、雪の中で越冬する赤かぶづくり
・こきりこ、麦屋節など今に伝わる民謡の数々

などの産業や文化も発達しました。

特に、国の無形文化財にも指定されている「こきりこ」や「麦屋節」をはじめとする民謡は、平家の落人や流刑となった罪人などから広まったとも言われ、囲炉裏を囲んで歌や踊りに饗する時間は、山や雪に囲まれた地での数少ない楽しみだったのでしょう。

そんな歴史や文化が色濃く残る地を、私たちは『世界遺産のかくれ里』と呼び、今活性化に取り組んでいます。

多くの観光客が、合掌造りの集落(家屋)を見るだけで通過してしまう、または規模が小さいため立ち寄りもされない今の状況を何とか変えたい。歴史と文化に彩られた本当の五箇山の魅力を知ってもらいたい。それが私たちの目標です。

テーマは「観光」、「食」、それらのプロモーションとまちのホスピタリティ向上。

私が担当しているのは、主に「食」と「プロモーション」です。

食で活性化というと、B級グルメや目新しいヒット商品を開発することに意識が向きがちですが、五箇山はそうではなく、昔から受け継がれた食文化にこそ価値があることを再認識し、それをアピールして観光客の方にもその価値を共感してもらいたい。その思いをもって取り組んでいます。

名物の五箇山豆腐は、縄で縛っても崩れないほどの型豆腐。
大豆のうまみも凝縮されていて、
ほぼ、どの飲食店でもお豆腐が食べられます。

豆腐の妖精(?)とっぺちゃん!
これから五箇山の食をリードするキャラになってくれるでしょう。

今は、お食事処がどこにあるかもわかりづらい街道沿い。
ごちそうを出すという思いを持っていただける飲食店や旅館・民宿の店頭に掲出していただくことに。
私たちの思いがつまったタペストリーです。
観光客の方の目に留まればいいなぁ。

一番苦労したのは、地元の方にその真の価値を理解してもらうことでした。
豆腐や山菜・岩魚(イワナ)、それに赤カブ・そうめんかぼちゃ、みょうがなど。それらは食材の少なかった五箇山の貧しい食事だという意識が根強いのです。私が毎回訪れるたび、こんなにも豆腐や山菜のお料理を楽しみしているというのに。(笑)
何度も何度もそれを力説し、ようやくこのタペストリーができるところまできました。
浸透させるにはまだまだ時間もかかりますが・・・。

お食事処やおみやげ屋さん、民謡や和紙漉きの体験プラン、日帰り温泉、合掌造りのライトアップなど、いろいろな情報が詰まったポケットマップが間もなく完成します。
五箇山のお豆腐屋さんにいるようなおばあちゃんと、豆腐の妖精とっぺちゃんがご案内役。今後、五箇山のストーリーテラーになってもらう予定です。
今年作ったこれらのツールは、デザインやイラストも全て五箇山の人の手で出来ました。
それが私にとっては大きな喜びです。

その他、新しいお土産品も開発中です。

特産品の和紙の材料となる楮(こうぞ)の木は、質の良い木を育てるために葉は早いうちに間引かれてしまいます。桑科である楮の葉を摘み取り、粉末にして混ぜ込んだお菓子、これももうすぐ完成の予定です。

こんな風に地域活性化支援の仕事をするようになり、『食』というテーマに向き合うようになってから、『食』ってなんだろう?地域の力になる『食』って何だろう、その軸を求めて私は『食育』を学びました。
子供には、健全に育ち強い体を作るための食、大人には不要なものを取り込まない・排出するための質の良い食です。
そして、選食力をつけること・食文化を守り伝えていくことも食育の大きなテーマです。
島国である日本の風土が育てた日本の食文化。食が欧米化する現代の時流の中で、日本の食文化も失われつつあります。奇しくもこの原稿を書いている今日、「和食」の無形文化遺産への登録が決定しましたが、これからも、地域活性化の仕事をする中で、少しでも日本の・地域の食文化を失わず、伝えていくお手伝いができればと思っています。

地域活性化支援。1年や2年で簡単に結果は出ないでしょう。

私が通っている間には手応えを得られるところまで至らないかもしれませんし、思うような結果が出ないかもしれませんが、これからもその地域の人たちと心を合わせて頑張っていきたいと思っています。
そのために、私自身もまだまだ勉強しないといけないなと感じる毎日。来年はまた新しく勉強を始める予定です。
(高校時代落ちこぼれだった私がこんなこと言うと、同級生の皆さんはビックリされるでしょうが!)

それでは最後に、無形文化遺産、小学校の音楽の教科書でおなじみの、五箇山の民謡こきりこの写真で終わりにします。

先日、友人を誘って泊まった合掌造りの宿で、囲炉裏端の夕食後に鑑賞した迫力あるこきりこの「ささら踊り」、そして記念撮影で傘を脱いだ踊り手の方がイケメンで大喜び、という絵です。(笑)