「保育と犬とセラピーと」赤山 美香(高34)

私の星陵高校での一番の思い出は柔道部のマネージャーをしたことです。初めは剣道部を見学に行こうと思っていたのに、間違えて柔道部のドアを開けてしまい、そのままマネージャー業へ……。全くの予想外の展開!

でも、今の私の礎となる、貴重な経験をたくさんさせていただきました。試合の前にお守りを作ったり、ケガの手当をしたり、部費を徴収したり(これ、部員さんは嫌だったよね?)、お茶をわかしたり、部室をお掃除したり(これは私が嫌だった!何がでてくるか、わからないもの!!笑)。

卒業してからも、一緒にキャンプに行ったり、合コンしたり、楽しかったなぁ~!そう、私は、誰かのお世話をするのが大好きなのです。そして、喜ぶ顔を見るのが大好き!!

学校を卒業して、幼稚園の先生になり、結婚して東京に行ってからも保育士をし、子どもの手が離れてから復帰し、去年まで、可愛い子どもたちとともに、歩いてきました。

人生半分ぐらい来たなぁ~と思った頃、微力ながら何か社会のお役に立ちたいなぁと思うようになりました。その頃、我が家にトイプードルのウィズがやってきました。基本的なしつけを学ぶために、ウィズとトレーニングをしていくうちに、NPO法人ペッツフォーライフジャパンと出会います。捨て犬や捨て猫を保護し、病院でワクチン投与などの必要な治療を受けたのち、しつけをして飼いやすい状態にして里親に譲渡するという、動物の保護活動を行っている団体です。

その団体の活動のひとつに、ドクタードック活動というものがあります。それは、優良家庭犬の試験に準ずる形で行われる、ドクタードック認定試験に合格した「ドクタードック」たちが、老人ホーム、幼稚園、保育所などを定期的に訪れるというものです。私の目標は、すぐに定まり、「よし!このドクタードック活動を、これからのボランティア活動としてやっていきたい!!」と、思ったのでした。

それから、ウィズとのトレーニングをがんばりました。いろんなコマンド「カム」「ステイ」「ダウン」などを覚えること。また、誰にどこを急に触られても怒らないこと、「ヒール」で歩く、走ることができること、お腹を見せること、マズルをつかまれても嫌がらないこと、など、たくさんの課題がありました。子どものしつけと犬のしつけはよく似ています。できたことをほめ、自信を持たせていきます。ウィズは、生まれつき、「人好きな性格」「癒しのエネルギー」を持っていましたので適性は合格! 課題もひとつずつクリアしていきました。そして何より、私とウィズの間にゆるぎない信頼関係が生まれたのです。

今は老人ホームに月1回のペースで訪問しています。ウィズが来るのを心待ちにされている方、抱っこしただけで昔お家で飼っていた犬を思い出して涙ぐまれる方、ほおずりされて、話しかけられる方、それぞれに癒されていらっしゃるのをみると、私の方が胸が熱くなります。中には「犬が苦手で……」「今まで触ったことないのよ」とおっしゃる方もいらっしゃいます。そんなときは、まず、ウィズと握手をしたり、一緒にお歌をうたったり、おやつをあげてもらったりして、慣れていただくことから始めます。ムリのないように、入居者さまの気持ちに寄り添って、ただじっと横にいるだけの時もあります。そうこうしているうちに、ふっと触れたりする瞬間があります。もう、その時はみんなで大喜びします。いくつになっても、「わぁ!触れたわ!」「こんなこと、初めてよ」という感動は嬉しいもので、表情がパッと明るくなる、その貴重な瞬間を共有させていただいています。そして、その時、必ずといっていいほど、ウィズは満面の笑顔です。また、「命の授業」では、子どもたちに、正しい犬の触り方や、遊び方をレクチャーしたりします。ここでも、ウィズは終始ニコニコしています。

私は、このウィズの姿を目の当たりにして、人間も動物も、生きとし生けるものすべてにセラピーは必要であると感じました。そして、今は保育の仕事を辞め、自宅の一室で、サロンを始めました。カウンセリングや、アロマトリートメントなどを通して、現代社会のストレスでお疲れになった身体と心を癒してさしあげられたら、と思っています。そして、ペットとして飼われている犬や猫ちゃんのケア、飼い主の心のケアなどそういう方面のセラピーもやっていこうと思っています。

セラピーのお仕事・ドクタードックのお仕事・保育のお仕事、一見3つが全然別々のように見えるかもしれませんが、実は私の中ではつながっていて、高校時代、部員さんの喜ぶ顔が見たくてやっていた、その気持ちが根底にあります。どのお仕事も、対象は生きとし生けるもの。そして、お客様、入居者さま、子どもたちが笑顔になっていただける、共感しあえるお仕事です。そこに私の原点はしっかり流れているのだなぁと、感じています。

ここで、みなさんに、お願いがあります。

生き物の命の重さはみな同じです。もし、新しく犬を飼おうと思われる方がいらっしゃったら、一頭でも、不幸な命を作らないためにも、その犬種について研究し、その命の灯が消える時まで責任がもてるかどうかの話し合いをご家族でしていただきたいです。不幸なことに、愛護センターに殺処分で持ち込まれる犬の多くが、飼育困難、飼育放棄によるものです。「飼ってみたら意外と鳴き声がうるさかった」「子どもが生まれて、アトピーになった」「手が付けられないほど凶暴である」、などなど……

心あるブリーダーさんから購入すると、どうしてもの時は、必ずブリーダーに相談してくださいと言われます。それはとても心強いことです。ブリーダーさんは、その犬種、その子の血統、性格、遺伝、すべて研究されています。そして、生後90日までは社会化の大切な時期なので、決して親から離しません。子犬たちは、その中で、親や兄弟たちからたくさんのことを学びます。

ペットショップでは、パピーミルという劣悪な環境で、商品として犬を繁殖させていることが多いので、子犬の社会化が不十分なまま市場に出されます。不安なまま出された子犬が、人を信用できず、不安なときに取る行動は「咬むこと」「吠えること」なのは、当然のことなのではないでしょうか。

私も、はじめは何も知りませんでした。私には、ウィズ(この子もペットショップから来た子です)が身をもって教えてくれました。だからこそ、いろんな活動を通してこのことを伝えていかなければならないと思っています。動物愛護法も、少しずつ改定されてはいますが、まだまだです。ご縁あって、この文章をお読みくださった、おひとりおひとりの気持ちが変われば、救われる命も増えるのではないでしょうか。

「動物にも、人にも優しい社会」をめざしていきたいですね。今回、このような機会を与えてくださったことに深く感謝いたします。ありがとうございました。

参照:「NPO法人ペッツフォーライフジャパン」公式HP
http://www.pflj.org/