「舞台写真家として生きる」池上 直哉(高24)

私は星陵高校時代、文化部長屋と呼ばれる一角に有った写真部の暗室に籠もり、撮ったフィルムの現像やプリントに熱中して過ごしました。そして日本大学芸術学部写真学科に進みました。写真を極めたいと思い入った大学でしたが、演劇や映画など様々な学科の友人たちと交流するうちに、身体表現の面白さに引かれ、演劇学科に有った舞踊コースに通うようになりました。

「会場風景」

同期の仲間の踊りも面白かったのですが、それぞれが子供のころから習ってきた先生の中に一線で活躍される方々があり、その舞台を撮ることに熱中していきました。ただ舞台は非常にマイナーな世界で、舞台だけで写真家として生きることは大変だと思いながらも、覚悟を決めて卒業後はアルバイトしながら舞台を撮り続けました。

「会場風景」

そんな中、1977年に舞踏家・大野一雄さんとの運命的な出会いがあり、当時は日本の舞踊界でも知る人が少ない72歳の舞踊家の公演に立ち会うことが出来たのです。私が23歳の時です。撮ることを進めてくれた評論家のおかげで撮れましたが、この作品は土方巽と言う「舞踏」創始者が演出した後世に残る名作でした。大野さんは、この作品を持ち1980年にフランスのナンシー演劇祭で海外デビューを果たし、一躍時の人となり世界中の劇場から招聘されるようになります。活動年表を見てみると80年代から90年代半ばまで海外での公演が多くを占めています。私は最初の作品「ラ・アルヘンチーナ頌」を撮ったおかげで、日本での主要な作品は撮り続けることが出来、2010年6月、大野さんが103才で亡くなるまでお付き合いが出来ました。思い返してみると、大野さんに出会えたからこそ舞台写真を撮り続けられたとも言える人生です。

「会場風景」

2000年に横浜とパリで同時に写真展も開くことが出来、また現在2014年2月1日から3月8まで東京の清澄白河で個展も開くことが出来ました。この個展は2009年に「アントニー&ザ・ジョンソンズ」のジャケットに1977年に撮影した大野さんの舞台写真が使用され評判になり、アートギャラリーでの開催が決まりました。人生を振り返ると、大野さんと言う舞踊家を無名の時に撮れ、72歳から103歳までライフワークとして追い続けることが出来たのは幸運でした。現在でも日本より海外での認知度が高い方ですが、舞台の一瞬を切り取った写真でその世界を残していければと思っています。今回の写真展では、私の期待する舞踊家や音楽家、そして評論家も来てい戴き、ギャラリーイベントで盛り上げていただきました。

「アコーディオン演奏家・岩城里江子さんと」

また24回生の東京星くず会のメンバーが2月15日の大雪の中、写真展会場に駆けつけてくれ宴席を設けてくれました。同期生と会うと、一瞬のうちに高校時代の空気が満ちるのは不思議な感覚です。今後も一期一会を大切に過ごしていきたいと思います。

「東京 星くず会」

なお私が1988年に作り、活動を続ける日本舞台写真家協会が創立25周年企画展の巡回展を2014年6月8日(日)~15日(日)まで吹田市文化会館メイシアター展示室で開催いたします。20世紀から21世紀にかけの素晴らし舞台写真の世界を45人の会員でお見せいたします。ご興味がありましたらご覧ください。

「池上直哉展(’14.2.1-3.8)」
http://sprout-curation.com/