「歌と共に」鈴木 美登里(旧姓西内)(高32)

近年ソーシャル・ネットワークの普及により、懐かしい友達と連絡が取れたり、久しぶりに再会を果たせたりと、生活にちょっぴりスパイスが加わった方も多いのではないでしょうか。私もその内の一人で、FBなどを通じて遠方で活躍されている同窓生の記事などを時々嬉しく読んでいます。そうこうしているうちに、FB経由で同窓会のリレー・コラムの原稿依頼が来てしまいました。
というわけで、現在の私の仕事や、高校時代の思い出についてお話ししたいと思います。

私の高校時代は、部活動なくしては語れません。元々子供の頃から歌うことは大好きでしたが、高校でコーラス部に入ったことが本格的な声楽の勉強をするきっかけになり、その後の自分の進路を決定づけたのです。それほどにコーラス部で過ごした3年間は私の人生の中でとても濃い時間でした。

授業が終わると一目散に音楽室へ。すでに発声練習が始まっている時には息が弾んでいるのも構わず慌てて参加しました。パート練習で先輩にたっぷりしごかれた後、混声で合わせる時間は最高に楽しかったのを思い出します。コンクールや文化祭、夏の合宿、定期コンサートなど懐かしい行事は数え切れませんが、今思えば日々仲間と過ごした練習時間こそが私にとって一番の宝物だったと思います。当時の顧問で恩師の田村先生が、入部して間もない私たち1年生に『よく気がつく人になりなさい。』と仰っていたのをよく覚えています。当時は何気無く聞いていた言葉でしたが、部活動という集団生活の中で、また音楽を演奏する上で『よく気がつくこと』、これほど大切なことはないでしょう。この言葉は大学生活でも、また留学先でも、そして現在ソプラノ歌手として活動していく上でも常に心の中に響き続けています。

私は大学でドイツ・リートを中心に勉強しましたが、卒業後はかねてから興味のあった18世紀以前の古い音楽にのめり込みました。今では『古楽』と呼ばれている分野ですが当時日本ではあまり知られておらず、演奏する人も僅かでした。日本で学べることは限られていたので、私は古楽の本場であるオランダへの留学を決め、そこでグレゴリオ聖歌から中世、ルネサンス、バロックの音楽を学びました。様々な国の演奏家たちとヨーロッパ各地で演奏会や録音をする機会を与えられ、本当に貴重な勉強をしましたが、特に古い時代の声楽アンサンブルでは、それまで経験したことのなかった音の響きや感覚を体験することが出来、『日本に帰ったら自分のアンサンブルのグループを作りたい』という思いに駆られました。そうして2000年に帰国し、その2年後に声楽アンサンブル『ラ・フォンテヴェルデ』を結成しました。

1パート一人ずつで歌うこのグループは、16世紀から17世紀初期にかけてヨーロッパ中で流行した『マドリガーレ』をレパートリーにしています。マドリガーレは言わば大昔のヒットソングのようなもので、扱われる詩の殆どが恋愛詩で中には大変に官能的なものもあり、その音楽は演奏が少人数とは言え、なかなか情熱的で劇的です。今年で結成12年目を迎えますが、昨年リリースしたセカンド・アルバムはレコード芸術誌で『特選盤』に選ばれました。

10年前にはクラッシク音楽の中でさえ取り上げられることが殆どなかったこの分野でしたが、最近は演奏するグループも少しは増え、高校の授業でも取り上げられるようになったことは大きな喜びです。

指揮者のいない声楽アンサンブルはそれこそ『よく気がつく人』でなければ音のタイミングを逃しますし、他のパートをよく聴けなければバランスを崩してしまいます。人と人の『気』と『呼吸』で成り立っている音楽なのです。そういう意味では私たちはまだまだ修行が足りませんが、恩師の言葉を胸に日々精進していきたいと思います。

昨年から開始したマドリガーレ作曲家の巨匠、クラウディオ・モンテヴェルディ(1567~1643)の『マドリガーレ集全曲演奏シリーズ』は少なくとも6年ほどかかる予定で、終わる頃には結構な歳になってしまっているでしょうが、声が出る限り音楽への情熱を忘れずに歌い続けたいと思います。

ラ・フォンテヴェルデ La Fonteverde;http://www.lafonteverde.com/