「フランス料理人としての日々を。」石見 優樹(高57)

私は57回生として星陵高校を卒業し、そのまま進学はせずに働きながら暮らしていました。そして周りの皆が大学を卒業する年齢になる頃、それまでと全く違う道へ進む決意をします。その道とは、フレンチのコック。つまり料理人です。

私はそれまで、自分の趣味の範疇でしか料理というものと向き合った事がありませんでした。自分のお店を開けたら楽しいかな?という単純な興味や、和食か洋食か、どちらを専攻するかも決まっていない軽い気持ちで専門学校の扉を叩いたのです。しかしそこで待ち受けていたのは、衝撃の連続でした。

牛の赤ワイン煮込み

1個20円の卵3個にバターをひとかけら、ほんの少しの調味料だけであっという間にホテルのレストランなどで出てくるふわふわのオムレツが作られたのです。今でも私を料理の世界に引き込んでくれた恩師の言葉は忘れられません。

「我々料理人は、美味しい料理を作るというそれだけで人々を幸せにすることが出来る。」

美味しい料理を作る。本当にそれだけのことなのに、いざ挑んでみるとさっぱり先輩たちのようには行かない。同じ手順を踏んでいるはずなのに、なぜか出来上がりが全然違う。その影には全ての料理人たちに言える、弛まぬ努力が見え隠れすると思います。

魚介のタルタルを王冠仕立てに

それからというもの、寝る間も惜しんで包丁を砥いだり切り物の練習をしたり、実習で教わった料理を家で復習がてら作って家族にふるまったりしてあっという間に学生時代は終わり、そして今、私は大阪市内のとあるホテルに勤めています。そこでは会社をあげて何よりもまず伝統と革新を慮り、料理人としても常に伝統を踏襲しつつ最新の調理技術を試みるなど、常に刺激の多い環境にあります。

鹿肉とフォアグラのパイ包み焼き

学生時代アルバイトしていたホテルではレストランを2か所、宴会場の大厨房で温製料理、各部署の食材の下処理をするサプライキッチンを経験させて頂きました。就職したホテルではレストランを2か所、宴会場の大厨房で温製料理と冷製料理を経験し、今は宴会冷製料理のキッチンで働いています。色んな職場を経験して思うことは、それぞれの部署に向いた仕込みの段取りや調理方法があり、また先輩の数だけ様々な料理の作り方があるな、と言うことです。その中でも自分にあったやり方を取捨選択し、昇華させていく。そうやって先人たちの歩んだ道を辿ることがとても大事だと感じました。

新鮮な貝の取り合わせ/キャビア添え

フレンチを学んでいて感じる事といえば、前述した私をコックの世界に引き入れてくださった先生の言葉もそうですが、18世紀頃の美食家として知られるブリア=サヴァランという人物が居ます。その方の遺された言葉の中で私の好きな言葉をご紹介します。

・新しい料理の発見は、人類の幸福の為には星の発見よりも効果がある。

・誰かを招待するということは、同じ屋根の下に居る間じゅう、その人の幸福を引き受けるということである。

料理というものは、ただ美味しいという、それだけで人々を幸せに出来る。レストランや宴会場に来られるお客様の顔を一人一人眺めていると、本当にそう思います。そしてそれは、複合的な要素としてアレンジメントを施したり、華やかな盛り付けであったり、食欲をそそる香りであったり、口に含んだときの食感であったり、鉄板料理などから聞こえてくる高温で調理される音であったり。人の持つ五感すべてを活用して楽しむものであるからこそ、人々は刺激を求め美味しい料理というものを常に追求していくのかな、とも思います。

羊のロースト/グリル野菜添え

そんな私ですが、まれに星陵の同級生を招いてホームパーティを開いたりしています。もちろんフルコースで。自分が今作れる一番美味しい物を、と、毎回仕事の合間を縫って休日を使い仕込みをし、パーティ当日を迎えています。

本当はもっと色んな友人にも食べてもらいたいのですが、まだまだ修行中、少人数で。それでも来てくれた皆に、来てよかった、元気が出た、本当に美味しかった、と笑顔になってもらえると、「ああ、料理人ってなんて素晴らしい仕事なんだろう」と感じます。

タルトタタンとフロマージュブラン

美味しい料理で人々に喜びや感動を与える。

それが私の、コックを続ける一番の楽しみであり、幸せであり、やり甲斐です。

コールド料理(宴会場にて)