「好きなことを追いかけて、辿り着いた先が。。。。。。」丹治 由佳(高38)

はじめまして。38回生の丹治由佳です。

同時期に在学されていた方なら、始終私服でウロウロしていた奴として記憶に残っているのかもしれませんね。美術部に在籍し、在学中の記憶の殆どが美術室のものです。部活するために学校行ってるようなものでした。

さて、今の仕事のお話ということで、その話を中心に書こうと思うのですが、果たしてこんな話で良いのかと不安なのですが、少しお付き合いください。

私は今、高知県の四万十町で仕事をしています。こう聞くと多くの方は、農業やら自然と関わる仕事?美術部だったということで、工房を構えて創作活動?などと思われるのではないでしょうか?確かに四万十川が流れ、周りは山でとにかく緑。降るような星。と自然の素晴らしいところです。

が、所謂オタク的な仕事をしています。この豊かな自然の中で(笑

大阪門真に海洋堂というフィギュアメーカーがあります。ニューヨーク自然史博物館から制作依頼があったり、大英博物館の公式グッズを制作したり、現代美術作家の村上隆氏とのコラボ、毎年二回(冬、夏)ワンダーフェスティバルと言う模型の一大イベントを開催するなど模型業界では有名な企業です。その海洋堂の歩みを感じられるホビーのミュージアム「海洋堂ホビー館四万十」が廃校を利用して、2011年に四万十町にオープンしました。フィギュアやプラモデルなどのオタク的なものがギュウギュウに詰まったミュージアム。なんと町の施設です。

そのミュージアム運営会社に造形制作担当として、勤務しています。

この施設を作るために高知出身の宮脇館長(海洋堂会長)が作った会社で、元々滋賀の「海洋堂フィギュアミュージアム黒壁」に居た私は、館長の「次は高知でやるぞ~!」の号令でこちらに移籍したのです。好きこそもののなんとやらで、オープンしてからは、着ぐるみに入り、声優イベントでコスプレスタッフし、商品POP描いたりジオラマ教室したり何でもやりました。今はホビー館から少し離れた工房で造形中心ですが、展示替えにも行きますし、外部出張展示やホビー館イベントの企画などもやります。

館内、海洋堂フィギュア

ところで、このコラムをきっかけに自分がどうしてこうなった?!と振り返ってみたのですが、元々子どもの頃から漫画やアニメは好きでしたし、絵を描いたり工作も好きだったとは思います。

星陵美術部の頃に、アニメに詳しい先輩方が監督や制作会社の名前を出して話すのを聞いて、自分の好きなアニメや漫画を作ることを仕事としている人がいるんだなぁ、と初めて職業として意識したと思うのですが、自分には無理な話だと思っていました。彫塑もやってはみたものの絵以上にどうしょうもないなぁと立体造形は全く眼中にありませんでした。

大学生の時、アルバイトでFRP造形屋に行って、衝撃だったのが遊園地の乗り物などがひとつひとつ手作りだということです。人が喜ぶものを自分の手で作りたいと卒業後、別のFRP造形屋に勤めて色々なものを作りましたが、主に塗装担当で、原型は数えるほどしか作りませんでした。やりたい気持ちはあっても、自分は下手だからと納得していました。塗装も十分やりがいがある仕事でした。

この頃、ちょうど海洋堂のチョコエッグという食玩がブームになり、会社のみんなで大人買いやフィギュアのトレードをしていました。それで、海洋堂の名前を知ったと思います。

造形屋退職後のフリー活動中、海洋堂フィギュアミュージアム黒壁のオープンに向けて、ジオラマを作る事になった知り合いからアニメなどのキャラクターに詳しいと言う理由で仕事を貰うことが出来ました。そういう縁もあり滋賀で就職しました。

海洋堂フィギュアミュージアムは海洋堂のフィギュアを使ったジオラマ制作が主なので、自作フィギュアはあまり作る機会はありませんでした。出来のいいフィギュアを使ってその世界を広げる事が楽しかったので、漫画やアニメ、模型などに更に嵌ることになります。

自作フィギュアで作ったジオラマ

まぁ、嵌ってなんぼのそういうお仕事なんですが(笑)

四万十にやってきて、最初の造形の仕事がホビー館の駐車場に立てる漫画家のかっぱモニュメント7体でした。7人の漫画家さんがホビー館の為に描いてくれたオリジナルです。制作状況はかっぱ造形大賞の書籍に載っており、長くなるので省きますが、その漫画家の中に、ちばてつや先生がいらっしゃいました。完成後、作った人と話がしたいとわざわざ会社にお電話をくださり、「かわいく作ってくれてありがとう。嬉しいです。」とお礼の言葉を頂きました。これ程、光栄な事ってないんじゃないだろうか?と感動しました。これで、やっていけるんじゃないか?と少し自信もついた気がします。

外注の仕事もあります。今治のタオル美術館のムーミン谷とムーミンハウスのジオラマは、海洋堂の造形師さんにご指導頂き、フィギュアも作りました。かなり苦労しましたが完成した時はその分嬉しかったですね。

ムーミンハウス

ムーミン谷ジオラマ

ある企業のキャラクターを作った時は、原型から塗装見本まで自分で作ったものが一般流通品でなくても100個量産されたという事だけでも感激でした。何というか、プロっぽいなと(笑)

某企業キャラクター

ホビー館の繁忙期は私もジオラマ教室をやるのですが、家族旅行で参加したお客様が楽しかったからと予定を変更して次の日も教室に参加してくれた時は、本当にやっててよかったと嬉しくなりました。本来、人と接するのは苦手なのですが、楽しんでくれているのを見るのは嬉しいし、もっと喜んで貰いたい!と思うんです。だから、イベントの日などは、休みでも勝手に手伝ってたりします。お客様にちょっとした小ネタ解説するのも楽しいですね。フィギュアに興味なさそうな人でも、解説するとフィギュアを見る目が真剣になるんですよ。人と話すのは緊張するので滅多にしなかったんですけど。。。

ずっと下手だからと言いつつ、でも造形の仕事を諦めきれず、どんな形であっても造形に関わりたいとしがみついていたら、何故か自分の好きなオタクコンテンツに関わりつつ造形も出来るという恵まれた環境に流れ着いていました。

継続は力なりってほんとうですねぇ。。。(まぁ、他に色々取りこぼしも多い生き様ですが笑)

今でもまだまだ未熟で造形師と自己紹介するのに抵抗があったりするのですが、もっと作りたい、上手くなりたい、詳しくなりたいという気持ちがあり、他にもあれもこれもやりたい、と欲は増すばかりです。海洋堂の看板の下で仕事するので、プレッシャーが半端なくて、しょっちゅうへこたれてますが。

このブラキオサウルスもつくりました

振り返ってみたけど、高校生の自分が思っていた将来像と今の自分が違いすぎて、ホントにどうしてこうなった?!ですねぇ(笑)でも、その時々で好きなものを追いかけるエネルギーと好きなもの以外は意識の外に放り出すところはあの頃と何も変わっていない気がします。あの頃の成績表がそれを物語っていたような。。

星陵同窓会にどれほどマニアの人がいるかは分かりませんが、少しでも興味をもたれた方、是非お越しください。オープン4年で22万人以上の来館者がありましたが(こんなに辺鄙なのに。。。)、マニアな人より家族連れや中高年の方のバスツアーも多く、皆さんガチャガチャ回したりして楽しまれてますので、マニアでなくても十分楽しむことができるかと(笑)スタッフも地元採用が殆どで、所謂マニアな人が集まっている訳ではないです。私含めても三分の一くらいですから。

近くには、2012年にオープンした「海洋堂かっぱ館」もあります。春には山道に立派なバイパスが出来、大型バスも入れるようになります。(今までの道がどれだけ山道だったかという。。。)海洋堂四万十ミュージアムヴィレッジというプロジェクトとしてドンドン増殖する予定です。

海洋堂かっぱ館

このミュージアムを通じて、フィギュアがもっと一般的になって、良いものがちゃんと造形作品として評価されるようになったらいいなと思っています。

オタクだのフィギュアだの、あまり世間では良い印象を持たれていない言葉を並べてきましたが、ここまで読んで下さってありがとうございました。

また、このような自分を振り返る機会を与えて下さって感謝しています。