「俳句~十七文字の広い世界~」涌羅 由美(高35)

35回生の涌羅(旧姓 内田)由美です。

高校時代はバドミントン部に所属していました。

この度、来年の同窓会実行委員会のお手伝いをさせて頂くことになり、その流れから「リレーコラム」の原稿依頼を受けることとなりました。

今までのリレーコラムを読んでいますと、いかにも星陵らしいバラエティに富んだ素晴らしい先輩方のお話がずらり・・・

さて、自宅で子ども達を中心にピアノを教えながらも、ごく普通の主婦であり中、高、大学生の三人の息子達の母である私が何を書こうかと迷いましたが、やはりここは私の大きな楽しみでもある『俳句』についてちょっとお話してみようと思います。

*俳句との出会い

主人の転勤に伴い長崎にいた時に、叔母から送られてきた段ボール箱にはいっぱいの俳句の本と歳時記、そして手紙には「紙と鉛筆があれば、どこでもできるよ。」と一言。それからちょうど長男を身ごもったこともあり、日記がわりに俳句らしきものを作っては、叔母や母に添削してもらい、少しずつ投句するようになりました。

教科書にも出ているみなさんもご存じの高浜虚子の孫である稲畑汀子氏の主宰する『ホトトギス』に無謀にも投句し初めて2句入選したのが次の句です。

〝虫の声お腹の吾子とともに聞く〟
〝爽やかや母となる日の近づきて〟

*子育て俳句

スナップ写真を撮るように、育児日記を書くように、俳句をマイペースで続けていくと、何年かたって読み返してみると、その時の心情や情景がたった十七文字から鮮やかに蘇るのです。

〝小春日や沐浴の子は伸びをして〟
〝みどり児のくしやみひとつに戸惑ひぬ〟
〝向日葵がつかまり立ちの子に笑ふ〟
〝落葉踏む音が楽しきベビー靴〟
〝男の子らしくなり来し水鉄砲〟
〝網戸越し子等叱る声筒抜けに〟

歳時記と句帳と電子辞書があればOK!

難しい言葉は使わなくても、皆さんご存知のように、季題(季節の言葉)が入って、十七文字という定型さえ守ればOK!

俳句って年寄りの趣味と思われるかもしれませんが、なんのなんの切手とハガキ代だけでどこでも楽しめる忙しい若者向けの格安の趣味なのです。

*「句会」に初参加

転勤で関西に戻ってから、芦屋の稲畑汀子先生のご自宅で直々に戦後生まれの若者(?)が学べる句会があると紹介され、月に一回通うようになりました。「兼題」といういわゆる宿題の季題で五句作っていき、一句ずつ短冊に書き、それを全員で回して好きな句をお互い選んで句評し合うのを句会と言いますが、全て無記名なのでベテランも初心者もみんな平等なんです。「座の文学」ともいわれる俳句が普及したのはこのスリリングな楽しい句会が理由のひとつかもしれません。

年に一度は日本全国いろいろな所へ行って、一泊二日間俳句漬けになります。芭蕉の奥の細道の松島や、子規の故郷の松山道後温泉、蜃気楼を見るために富山の魚津に行ったこともあります。吟行という名目で旅行もできるので、一石二鳥です。

徳島の阿波踊りに「ホトトギス連」として参加し、プロの踊り連の方々に短時間でご指導して頂き、お揃いの浴衣を着て、踊った事もありました。

〝阿波踊百の表情見せる指〟
〝阿波踊三百六十日待ちて〟
〝踊下駄なる束縛も心地好し〟

*「俳句王国」出演

なんと、NHK松山放送局から当時BSで放送されていた「俳句王国」というテレビ句会出演の依頼が・・・
朝日俳壇選者の長谷川櫂さんの主宰でドキドキ緊張しつつも、夢のような一時間をすごしました。

下の句はその時の特選句です。

〝まごころをとろりと煮込む蕪かな〟
〝著ぶくれの子にしてしまふ親心〟

*俳句って・・・

俳句は世界で一番短い定型詩と言われています。

たった十七文字という制約の中で、見たもの、聞いたもの、感動したことなどを詠み込むなんて難しい、最初はあれもこれも全て言いたくて迷うばかりでした。

自句自解で恥ずかしいのですが、『ホトトギス』の巻頭に採って頂いた

〝白き歯の見えて勝利の日焼顔〟

という句は、日々の厳しい練習で前か後ろかもわからないくらいに真っ黒に日焼けした子(この時はサッカーをしていた息子がモデル)が、勝ちが決まりぱぁっと笑顔になった瞬間を捉えたものですが、こういう光景って誰もが見たことがあり、自分自身の経験と重ねたりして共感してもらえるんですね。難しい言葉を使わなくても、感動を伝えられる表現の手段として俳句は短いけれどすごい力を持っていると思います。

また、どんどんそぎ落としていく作業、これは日本の伝統芸能である能や活け花、お茶などと通じると思いますが、その省略によって生まれる余韻により、さらに鑑賞者の想像を広がっていくのです。

虚子も「平明にして余韻のある俳句を佳しとする」と言っています。

*日々の暮らしの中で・・・

俳句を始めてから、とても自然に敏感になりました。

空を何気なく眺めて季節の移り変わりを感じたり、ふっと香ってくる金木犀に立ち止まったり、おいしそうな豆ごはんが無性に食べたくなったり、鳥の鳴き声が少し聞き分けられるようになったり、お月さまが日に日に育っていく姿に感動したり・・・

日本という四季のはっきりした国に生まれて本当によかったなぁとしみじみ思います。

また日頃小さい子どもと接する機会が多いので、音楽を通して感性を育てていきたいと意識していますが、逆に子ども達から教えられることも多いです。

感動する心を持った子、素直に表現できる子、発見の天才である子などなど、私自身も子どものようにしなやかな感性を持ち続けたいなと思います。

第15回日本伝統俳句協会新人賞受賞

*最後に・・・

高校、大学とバドミントン部に所属し、大学卒業後は神戸市の中学校で音楽教師として採用されたのにジャージ姿でバドミントン部の指導と生徒指導で明け暮れる毎日。

今も、暇さえあればジムやテニスコートに通う毎日で、とても俳句にどっぷり浸かった文学的なそして芸術的な生活を送っているわけではありませんが、もしこのコラムを読まれて、「俳句っておもしろそう」とか、「句会に参加してみたいな」と興味をもたれた方は、気軽にお声かけ下さいね。

指導なんてまだまだできませんが、スタートのお手伝いはさせて頂きます。