「すべての原点は、高校生活から」八重崎 渚(高58)

みなさま初めまして、そしてお久しぶりです。58回生の八重崎 渚です。

私は現在、マリンバ・打楽器奏者として音楽活動を行っていますが、今の私があるのは星陵高校での生活があったからだと言っても過言ではありません。

幼少期からピアノをはじめ音楽とともに成長してきた私は、高校時代も吹奏楽部に所属しホルンを務めていました。星陵高校の吹奏楽部は楽器のパートとしての役割だけではなく、各部員に係が与えられます。部長・副部長はもちろんのこと、学生指揮者、パートリーダー、パートマネージャー、演出、進行、照明、大道具、運搬など一つの演奏会に対して各部員が様々な仕事を行います。

私はその中で進行係のリーダーをしていました。進行係は演出や照明の担当者と打ち合わせを行い、それぞれの動きを整理した上で進行表を作成します。演奏会の全体の流れを把握し、スムーズな動きができているかをチェックするのです。また演奏会では欠かせない司会の原稿も書いていました。

この仕事で私は多くのことを学び、また音楽をただ演奏するだけではなく、演奏会を作り上げていく楽しさを知りました。星陵高校の吹奏楽部は、演奏はもちろんですが演奏中に行われる演出が大変評判で、毎年行われる定期演奏会は特に力を入れています。とりわけ58回生が中心となって行った「第30回記念定期演奏会」では、初の神戸文化ホール大ホールでの開催となり、打ち合わせを重ねていく中で時には仲間たちとの衝突もあり、様々なアイデアを出し合いながら「この演奏会を成功させたい。お客様に楽しんでもらいたい。」とただただ必死に準備に取り組んでいたのを覚えています。

この経験があったおかげで、大学在学中からModern Classic Ensemble Projectというコンサートを自主企画する活動を始めています。演奏だけではなくホールの予約やプログラム構成など、演奏会に必要な事務の仕事もすべて自分たちで行います。「一人でも音楽を身近に思ってもらうためには、どうすればよいだろうか。あまり演奏会に行ったことのない人でも気軽に来れるようなコンサートをお届けしたい。」という思いから、クラシックとジャズの融合、音楽とダンス、音楽と朗読、など様々な企画で音楽の新しい可能性を追求しています。きっと星陵高校での生活がなければ、このような活動をしようとは思わなかったと思います。高校での経験が、今の私の原動力となっているのです。

さて、私はマリンバ・打楽器奏者であるにも関わらず、幼少期はピアノそして吹奏楽部ではホルンをしていたということを不思議に思われた方もいらっしゃることでしょう。私は吹奏楽部に所属する傍ら、中学生の時からマリンバのレッスンを受けていました。レッスンといっても始めは趣味感覚で習っていたので、あまりマリンバ奏者の道を真剣に考えることはありませんでした。

高校2年生で進路を決めるにあたって、ピアノを続けるかマリンバを専門的に勉強するのか、あるいは全く別の道を選ぶのか悩んでいた頃、音楽科の正門先生(同窓生です)の呼びかけで、文化部合同発表会でマリンバの演奏をすることになったのです。家にある古いマリンバを持ち込み、「レインダンス」というマリンバのオリジナル曲を演奏しました。特に素晴らしい演奏ができたわけではありません。それなのに先生方や友だち、果ては全く知らない学生まで「演奏すごくよかった!マリンバってあんなにいい音がするんだね!」とたくさんの人から声をかけていただいたのです。

その瞬間、私はある使命感に駆られました。「そうか、マリンバという楽器はあまり一般的に知られていない。その貴重な技術を私は幸運にも身につけることができたのだから、マリンバの魅力を私が伝えていかなければならないんだ」と。こうして私は打楽器の道に進むことを決意し、マリンバや打楽器の魅力を伝えるべく日々邁進しております。

ただ、音楽の道は険しいもの。この不景気の中で音楽をはじめとする芸術は非常に厳しい状況に追い込まれています。若い音楽家が音楽の仕事だけで生活していくのは容易なことではありません。別の仕事を同時にしなければならないのが現状です。

そこで私は「今後の音楽活動に活かせる仕事をしよう」と考え、現在は音楽活動をしながら、劇団四季の大阪四季劇場で劇場スタッフとして働いています。昔から劇団四季のファンで、お客様満足度第1位を誇るこの会社から何かを学びたいと思ったのです。やはり憧れの職場は厳しいところでした。劇場スタッフといってもただの「案内の人」ではないのです。劇団四季では「あいうえお、いうえおあ、うえおあい・・・」と開口を利かしてトレーニングする『母音法』が有名ですが、私たちも毎日欠かさず行います。また関西弁を使うことは許されず、新人さんはまず最初にイントネーションの違いに悩まされるのです。これはお客様に非日常的な異空間を演出するためで、このように徹底したサービス精神が根付いているのです。

現在、大阪四季劇場では「ライオンキング」が上演されており、開幕して一周年を迎えた今でも完売状態が続いているほどの大ヒット作品です。連日多くのお客様と接していると、本当にたくさんのことを気づかせてもらいます。自分が発する言葉の重さや、それぞれの価値観の違い、また笑顔で接することの大切さなど学んだことは数えきれません。経験したことや失敗したことはすべて私の財産です。

音楽活動においても、劇場スタッフをしていても、やはりお客様の喜んでいる笑顔を見ると一番幸せな気持ちになります。これからもきっと、多くの人生の壁にぶつかってしまうでしょう。しかし高校時代に培った「お客様に楽しんでいただきたい」という強い想いが、困難を乗り越えていくエネルギーになってくれると私は信じています。